大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和34年(チ)4号 決定

財団法人 日韓文化協会

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の要旨は次のとおりである。

一、申請人財団法人日韓文化協会は、その寄附行為第一六条によれば理事の定員は十人以上二十人以下と定められているが、現在理事長を含め四名が存するのみで、定員数に六名を欠いている。

二、申請人協会は、昭和三三年九月三〇日財団法人東京都興生会より東京都北多摩郡狛江町所在の宅地一、六四八坪四合七勺及び建物若干の贈与を受けたので、これを申請人協会の基本財産に組入れるとともに、現在基本財産である同都台東区中根岸町所在の宅地及び建物を早急に他に売却する必要がある。その事情は、申請人協会は現在一千万円の借入金を有し、年一割一分六厘八毛の利息を支払わなければならないため、協会運営の資金に支障を来たしているので、上述のとおり、新たに宅地等の贈与を受けるとともに、既有の財産を他に売却し、この代金を右借入金の返済にあて、申請人協会の運営に支障なからしめるということである。

三、然し寄附行為第七条第三項によれば、基本財産の処分には理事総数の三分の二以上の同意を必要とするが、現在四名の理事では、この処分に必要な同意を得ることはできない。

四、従つて、以上の事実は、民法第五六条の理事の欠けたる場合において遅滞のため損害を生ずるおそれあるときに該当するから、仮理事六名の選任を求める。

当裁判所の判断は次のとおりである。

本件記録に編綴されている寄附行為及び申請人協会の登記簿謄本によれば、申請人の主張する一、及び三の事実、並びに理事李康友は昭和三三年一月三一日辞任し、同小浜八弥、同三池信、同鄭寅勲、同辛燕は同年一二月六日任期満了により退任し、同鄭寅字は同月一〇日辞任した事実を認めることができる。そうして右六名の理事が辞任又は退任したことについて申請人協会との間に委任関係に基く信頼関係を失なつたことに由るものであること、及び辞任、退任後において右の信頼関係に支障を来たすような事情の存することについて何等の立証もない。そうすれば、このような場合において辞任又は退任した理事は、なお、理事の権利義務を有すると解するのが相当である。蓋し、このように解するのが法人の機関に欠員ある場合に法人の活動を円滑に継続させるために当然のことであつて、他面このことは商法第二五八条の存することからも推論できる。従つて、民法第五六条は、このような場合でないときに裁判所が第三者を仮理事に選任する規定であつてやむを得ない場合に備えたものであると解すべきである。

従つて、本件においては、申請人協会は辞任又は退任した六名の理事を含めて定数の理事が基本財産の処分について議するか又はこれらの理事が寄附行為第一七条第四項によつて新たな理事を選任して新理事により右処分を議することができるから本件申請は当を得ないものというべく却下すべきものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 長谷部茂吉 上野宏 中野辰二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例